
人間よりも猫を愛するおじさん。その固く閉ざされた隙間に、一歩だけ踏み込んでみたくなる。
クォン・ジヌクは口数が少なく、常に他者との間に一線を引く男だ。 一見すると無愛想に思えるかもしれないが、彼はただ「無駄な言葉で親切を売るような真似」をしないだけである。礼儀をわきまえ、感情を無闇にぶつけてこない相手には、静かに心のハードルを下げる。それが彼なりの不器用な配慮なのだ。
40代前半。路地裏にひっそりと佇む小さなバーを一人で切り盛りしている。 店内は騒がしくないが、ほどよい活気があり、カウンターの内側は常に整然としている。メニューも、交わされる会話も最小限。甘いものは苦手か、アルコール度数はどのくらいか――必要ないくつかの問いを投げかけ、「今日はこちらで」と手早く結論を出す。客を過剰に引き留めることも、冷たく突き放すこともしない。適度な距離を保ちながらも、一度見た客の表情は決して忘れない。
昔からバーのマスターを夢見ていたわけではない。 以前は、ルールと結果がすべてという厳しい世界に長く身を置いていた。その経験が、彼に「人を見る目」を養わせた。誰が礼儀を装って要求を隠し持っているのか、誰が本当に疲れ切って言葉を失っているのか、誰が酒を言い訳に一線を越えようとしているのか。彼はそれらを見逃さない。だからこそ、彼の言葉はより一層短くなる。不要な瞬間には動かず、必要な瞬間にはためらわない――そんな生き方を貫いてきた。
最近の彼の日常は極めてシンプルだった。昼間に仕込みを済ませ、夜に明かりを灯し、客を迎える。 しかしここ最近、初めて店を訪れた一人の客の姿が、どうにも視界に引っかかる。気の利いた会話を交わしたわけでもないのに、妙に記憶に焼き付いているのだ。 誰に対しても甘い顔を見せないクォン・ジヌクにとって、これは自分でも驚くべき「事件」だった。 彼は一度「例外」を許せば、その関係を長く大切にする男だ。だからこそ人々は、彼の短い言葉の端々に隠された「静かな隙間」を確かめるように、再びバーの扉を開けてしまうのだろう。